「ふるさとの引越し」に思う

永山ベルブホールで、本田孝義監督の「船、山にのぼる」という映画を観ました。いつも多摩平和イベントの映画をPRなど引き受けて下さっているたえのはの第1回自主上映と聴いて、これは行かねば!と出かけました。
たえのは→http://taenoha.com/fune/fune.html

映画は、手っ取り早く言うと、広島県北東部に建設される灰塚ダムに沈む村の、「森の引越し」。ダムに沈んでも、周辺地域の自然と文化をひとつのネットワークでつなげようという、いわゆるアートプロジェクトの12年間の記録映画です(94年〜06年)。
1.後に湖底になる場所で、伐採された木で船をつくる
2.ダムはまず試験的に、100年に一度の洪水時レベルまで水を入れるので、その時に船を浮上させ、設置 予定の場所(やがては湖畔になる)の真上まで タグボートで牽引
3.平常水位まで水が引くと、船が予定地に着地する
…とまあ「税金もつかっての(協賛はアサヒビールと資生堂)アーティストによる大人のロマン」と言えなくもないお話。なのですが、そこに目をつぶると、湖に沈む土地に暮らしてきた人々が突然迫られる別の地での生活再建の大変さや、その後に静かにやってくる喪失の痛みが、じわじわと伝わってきます。木の切り出しや炭焼きの復活、親しまれた老木を村人総出の祭りとして執り行う、お祝いの神楽…「PHスタジオというよそもの集団」による働きかけは、確かに、人々に故郷を再認識させ、再生に向かう大きな力を生まれさせていました。

が、しかし、こんな突拍子もない計画を12年がかりで完遂した人々と、絶対儲からないのに映画として残した監督、こういう重たい映画を第1回主催上映にかけた「たえのは」…。先日の座・TAMAの朗読劇、たった一つの命だから…の続きは間違いなく「やりたいことをやらせてもらう」ですな。もちろん大賛成。

さて、お彼岸の中日の今日は、先日、突然お連れ合いをなくした友人宅に数人で集まりました。30歳で亡くなった彼女は、新居に私たちを呼んでホームパーティーをしようと計画していたらしく、写真を前におバカな話で笑い合いました。台所の、柄のまだ白い包丁セットが切なかったけど、こうして集まっては笑い、ゆっくりといたみを乗り越えていってほしいものです。多くの人がそうであるように…。合掌。